杉崎が観念したように目をつぶろうとした時、切腹男の来た方向から、錫杖を槍のように扱いながら感染した者達を次々と打ち倒してくる、編み笠をかぶった一人の僧の姿が見えた。

それは、まるで映画のワンシーンでも見ているかのようだった。

華麗とも言える戦いぶりでステップを刻み、感染者の頭部を中心に攻撃し、なぎ払いながら、こちらに向かって来る。

シャン、シャン、シャン、シャン、シャン……。

錫杖の先に付いている金属の輪の音があたりに響いていた。

間一髪というところで、僧は切腹男の頭部に強烈な突きをくらわし、杉崎をすんでのところで救い出してくれた。

僧に頭部を攻撃された感染した者達は、みな悶えていた。

「大丈夫ですか?」

僧が杉崎を抱き起こしてくれた。

年は25~30ぐらいであろうか、編み笠から覗く顔は端正な顔立ちで、知性に溢れていたが、男の表情は明らかに憔悴しきっていた。

「おい!早くバスに乗れ!」

バスの入り口の所で、乗車を誘導していた男がこちらを見て叫んでいた。

先ほどの騒動のうちに、前方に並んでいた、あらかたの乗員は乗り込み終わっていたようだ。