杉崎の第六感が最大級の危険を告げていた。
心では逃げなければとわかっていても、肝心の体が言うことを聞かない。

それでも、直感力に優れ、危機察知能力の高い者は、この場の異常性にいち早く気づき、到着したばかりのバスに乗り込み、安全地帯へ逃れる者もすでに何人かいた。

それは、地獄絵図と言ってもいい光景だった。

感染した者は、次の人間にターゲットを定め、次から次へと見境なく襲い、噛まれた人間は痙攣を始め、感染者となりまた次の人間を襲う。

人が人を喰らっている。それは、死の連鎖と言ってもよかった。

杉崎は、なんとか気を取り直し、平井に言った。

「平井さん、早くバスに逃げよう!ここにいちゃいけない!」

平井も、我に返ったようにうなづく。

と、その時、地獄絵図のような揉み合いの中から、白装束の切腹男が、腹から血を滴らせながら、一直線にこちらに向かって来るのが見えた。

列の後方に並んでいる人間から、今度は前方の人間に目を付け始めたのだ。

バスに逃げ込もうにも、杉崎たちより前に並んでいる人達が乗車を始めていたため、すぐには乗れない状況だった。