Cage

午前中の授業を終えて昼食となった。

八階の食堂は新宿を一望できる展望台となっている。
勉強で疲れた頭を癒す趣旨なのだろう。

ミウとカオナ、ユウマは窓際の席について食事をしていた。

「けどさぁ。まさか教授だったとはねぇ」
ホークを指先で回してカオナが言う。
「ホント、驚いたね」
ミウは同意して、スープカップに息を吹きかけた。
「しかも日系だったとはな。二人が言葉がないはずだ」
ユウマはミルクを口元に運んだ。
「でしょお。どこからどう見たって旧日本人なんだもん。そりゃあ驚くよ」
「確かにそうだな」
ユウマは笑って頷いた。

「あっ」
ミウが短く小さく叫んだ。
「ん?」
ユウマとカオナが視線の先、食堂入り口に振り向いた。

そこには渦中のヤマト教授の姿があった。
初めての食堂に戸惑っていて挙動不審な動きなので目立っている。
辺りの学生たちは会話を止めて見守っていた。

「えーと。どうやったら食事ができるんでしょうか?」
各自が欲しいメニューを選び取って横に進むカウンター形式が解らずに頭をかいて困っている。
ヤマトを見て調理場と一体になっているカウンター内にいる大柄で年配の黒人女性が声をかけた。

「おや?。見かけない顔だねぇ。新入生さんかい?」
女性が珍しそうに明るく言った。
「一応、教授なんですけどね」
申し訳なさそうに答えた。
「あらあら、そしたら日本人じゃないだわさ」
さらに驚いて大きな目をくりくりさせた。
「日系三世なんです」
ニコリとして、差し出されたメニューをトレイに乗せて進んだ。
カウンターを抜け、辺りを見回すと座る席を探した。

「教授ぅ。こっちこっちぃ」
カオナは素早く立ち上がって手を振って呼んだ。
「ちょ、ちょっとぉ。カオナったらぁ」
ミウがカオナの袖を引っ張って静止する。
見ていたユウマは呆れた表情をした。

「ん?。おおっ」
ヤマトは声をかけられて嬉しそうに席に急いだ。