Cage

ミウはなんとなく寝付けずに、目覚ましの無機的電子音で朝を迎えた。

カーテンの隙間から光りがカーペットを照らしている。

やっとの思いで目をこすりながら起きあがると、あくびと一緒に両手を高く突き上げて大きく伸びをする。

中途半端な思考回路を巡らせてベッドから這い出た。

「ミウぅ。時間よぉ。起きなさぁい」
キッチンから母の声が追い打ちをかけるように響いた。

「はぁい」
ベッドから出たものの、動けずに床で座り込みながら返事をした。


いつもと変わらぬ朝だった。


朝食を取り、支度を整えているとドアチャイムが鳴った。

「ミウ。ユウマさんがお迎えに来たわよぉ」
母の声だ。

一瞬驚いて動きが止まる。

「ミウっ」
もう一度呼ばれた。

「は、はぁい」
返事をして玄関へ急いだ。

「早くしなさい」
母は、廊下で擦れ違うとミウを急かせた。

「遅くなって、ごめんね」
鞄を抱えて挨拶をする。

「おはよ。大丈夫だよ。まだ時間はある」
笑顔で答えた。


外は一段と寒さが増していた。
雲が重くのしかかっている空は、今にも雨か雪が降り出しそうだ。

「寒いね」
ミウの吐く息が白く宙を舞う。
「今夜は雪になるそうだよ」
ユウマの横顔も白い息が通り過ぎる。

「どおりで寒いわけだね」

「ああ」

いつもと変わらない会話。
いつもと変わらない横顔。
いつもと変わらない通学路。

この普遍的な生活にユウマは不安などないのだろうか。

昨日までのミウには釈然としないなにかがあった。
しかし、今朝はなにかが違っていた。
大学へ向かう道のりが待ち遠しく感じる。
この感情は、なんななだろう。
不思議な気持ちがミウの中で息づいている。

何故かユウマに打ち明けることができないなにかが…。