夜。

梨沙の家は、小さな喫茶店、
営業中だけど、客はいなかった。

梨沙が、「スラム・ダンク」を読んでいる

カウンターの中から、母が声をかけた。

   「あなた、宿題したの?」

本から目を離さず答える、梨沙

   「まだ」

   「そんなの、読んでないで、
    さっさとしなさい」

   「これ、済んでから」

   「それ、この前も、
    読んでたんじゃないの?」

   「バスケの勉強、勉強。
    何回読んでも、面白いもん」

   「先に、学校の勉強、しなさいよね」

   「もー、学校のは、面白くないもん」

   「じゃあ、せめて、本、読みなさい」

   「本、読んでると、
    すぐ、眠くなっちゃうんだもん」

   「あー言えば、こう言う。
    その、バスケットの情熱を、
    勉強に生かせないの?」

   「無理、無理」

馴染みの客が入ってくる。声のトーンが上る

   「あら、いらっしゃい」

元の声に戻って

   「さあ、奥へ行って、宿題しなさい」

   「はーい」

マンガを持って、奥へ行こうとする梨沙

   「マンガはダメよ。置いて行きなさい
    もう、マンガ、読んでたら、
    宿題、しないじゃない」

渋々、マンガを戻す、梨沙

   「ちゃんと、するのよ」

   「はい、はい」

奥へ行く、梨沙。

客に向かって、営業用の声で

   「もう、勉強がきらいでね、困るのよ」

   「あの返事じゃ、
    たぶん、勉強はしないな」

   「でしょう?」

   「いいじゃないか。元気が一番だよ」

   「それだけが、とりえなのよ、ねえ」

梨沙が行った方を見る、梨沙の母