10年前。

南城高校顧問と三田が、
控室前の廊下で、向き合って立っている

顧問 「三田さん、ありがとうございました
    うちのチームを、ここまで、
    強くしてもらって。

    しかし、指導は、今日までに
    してもらえませんか?」

三田 「えっ、しかし…」

顧問 「もういいでしょう?
    確かに、強くはなりましたが、
    内部はガタガタです。

    どうも、レギュラーと
    控えの選手の間に、
    溝があるみたいですな」

三田 「そうですか。私も、
    うすうす感づいてはいたのですが、
    勝つ事を最優先にしていて、
    ここまで、ずるずると
    来てしまって…」

顧問 「選手を、自分の思い通りに動かせて
    意に添わないものは切り捨てる。

    勝てば、選手も嬉しいでしょうけど
    本当にうれしいのは、三田さん、
    あなた自身ではないのですかな?

    あなたの満足の為に、
    選手を使わないでいただきたい」

目を伏せる、三田

三田 「いえ、そんなつもりは…」

顧問 「部活はあくまでも教育の一環です。
    出来ないからと言って、
    切り捨てることは出来ません。

    あなたが、どんな選手だったかは、
    知りませんが、コーチの役目は、
    子供たちの可能性を
    引き出すことではないのですか?」

はっとして、目を上げる、三田

顧問 「このままでは、もっと大きな
    問題が出かねません。

    私は、強いチームより、
    健全なチームを望みます」

唇を真一文字にして、聞いている三田

三田 「わかりました…。
    ウマいヘタを価値基準にしたのが、
    間違いでした。

    全ては、私の責任です。
    本当に、すみませんでした」

深々と、頭を下げる三田