透明図

後ろ、そこには藤橋君が傘をさして、なんだか照れたような、そんなふうに笑っていた。

藤橋君。

君は今日は笑顔なんだね。

そんな顔もできたんだ。

でも、なあに。少し変じゃない。

笑顔が少し悲しそうだよ。

私は瞳の奥に熱くなりゆくものを感じてしまう。

藤橋君の顔から、笑みが次第に戸惑いに変わりゆく。

なによ、そんな顔されたらこぼれるじゃない。

胸の奥の揺らめきは、私にはもうどうしようもない。
そっか。

私が泣いてるからだ。

君に悲しい顔を見せてしまったからだ。

じゃあ、悪いのは、私のほうだね。

じゃあ…。

じゃあって…、もう、こらえられないよ。

すっと、手から力が抜けてゆく。

ズンと、にぶい音がした。
私の手の内から、いろんなものがこぼれ、落ちてしまった。

私は抑え切れずに藤橋君の胸にもたれかかる。

もう、自分じゃ自分を支えきれないよ。

まなこから大粒の涙が止めどもなく溢れてくる。

なんだか頭ももう考えられないじゃんか。

藤橋君の手が、私の頭を後ろからギュっと優しく抱きしめる。

藤橋君。

そっと、そっとしておいてくれたらいいのに。

そんなふうにされたら、もっともっと涙がでてしまうじゃない。

もう、どうすればいいの。

ただ、私はノラを想い、私の中から溢れてくるものに身を任せるだけしかできない。

時間が、もっと早く過ぎてくれればいいのに。

今はそれだけが救いじゃなくて？