天使の林檎

　ふと周りを見ると、廊下だけでなく、教室のドアからも人が覗いている。
　噂になっている美男美女が一緒にいるということで、周りは足を止め、こちらを見ていた。

「あ、傘持って来てくれたんだね」
「え？　あ、はい。ありがとうございました」

　諏訪君からお礼を言われて傘を渡される。

「ね、良かったら君も一緒にお昼を食べない？」
「え・・・？」
「ゆ、友紀？」

　友紀が突然言い出した事に、私と諏訪君が同時に驚く。
　
「あら、いいじゃない。彼も美術部員なんだもの。それに人数がいる方が楽しく食べられるわよ」
「・・・そ、それはそうだろうけど」
「あなたは嫌？」

　友紀が優しい笑みを浮かべて諏訪君に聞く。

「い、いいえ嫌ではありませんが・・・」
「じゃあ、決まり！ お弁当を持って美術室に来てね？」

　嬉しそうな友紀を見て、諏訪君は頬を染める。

　いくら天使のようだと言われている諏訪君だって、普通の男の子だ。
　美少女の友紀に微笑まれて、恥かしがるのは仕方ない。

　そう思うのに、何だか卑屈な気分になってしまう。

　今まで、１度だって自分の見た目を気にしたことなんてない。

　異性にモテたいと思ったことが無かった。
　確かに私は平凡な容姿だけど、それが私に及ぼす悪い影響は少なかったから。

　でも、智の気持ちは友紀に出会って、あっさりと友紀に移ってしまった。

　どんな建前を言っても、やっぱり友紀の前で私は霞む。

　生き物はみんな綺麗なものに惹かれる。
　それは当然の摂理なのだ。

　だからどんなに部活で仲良くなったとしても、そんなのは一瞬で関係なくなってしまう。

　そう思ってみても、何だか胸が痛かった・・・・・・。