天使の林檎

 7月に入ったのに雨が続いていた。

 雨が嫌いなわけじゃないけど、こう続くと少し気が滅入る。
 制服が濡れるし、水溜りが跳ねるとやっかいだし。

 普段は友紀と中庭や屋上で昼食を食べているんだけど、どちらも雨の時は使えない。
 楽しいことにはかわりないけど、やっぱり教室でご飯を食べるのは味気ない気がする。

 そのことを美術部の顧問の先生である浜口先生に話したら、美術室で食べてもいい許可をくれた。
 美術部部外者である友紀も一緒だ。

 でも、許可をもらった次の日に限って雨は降っていなかった。

 どんよりと厚い雲が居座っているのは同じだけど、天気予報は降水確率が20%。
 人生そんなものである。

 ガッカリしながらも学校へ行く。

 けれど、放課後になる頃には雨が降り出していた。
 部活が終わった後、浜口先生に相談があって残っていた私は、いつものように皆と帰らなかったのだ。

 少し時間がかかってしまったけど、まだ外は暗くない。

 カバンには折りたたみ傘がちゃんと入っている。
 雨が降っても心配はない。

 昇降口に下りて上履きから靴に履き替えた。

「堀口先輩」
「ひゃあ!」

 急に後ろから声をかけられて飛び上がる。

「あ、驚かせてすみません・・・」

 振り向くとそこには諏訪君がいた。

「ううん、大丈夫。誰もいないと思ってたから、ちょっと驚いただけ、どうしたの?」

 先に帰ったと思っていた諏訪君が、なぜここにいるのか聞く。

「先輩、傘を持っていないんじゃないかと思って待ってたんです」
「え? 傘なら持ってるよ?」
「え?」
「ほら、これ」

 カバンから折りたたみ傘を出して諏訪君に見せる。

 諏訪君は傘を確認したとたん、気まずそうな表情を浮かべた。