天使の林檎

 あんな事があった次の日。

 やっぱり学校はあって、後ろの席だから仕方ないんだけど友紀と会った。
 友紀が日直で私より先に来てたから、友紀はすでに自分の席に座っている。

「おはよう」

 友紀が悪いんじゃないことは納得していたから、私から挨拶した。
 でも、なぜか友紀の表情が暗い。

「桃、話があるの」
「うん? 何?」
「ちょっといい?」

 そう言って連れて来られたのは屋上に続く階段の所だった。

 友紀は気まずそうな表情で私を見ている。

「あのね。こんなこと言いたくないけど、桃、あの彼氏と別れた方がいいよ。アイツ、私に告白してきたの」
「うん」
「付き合っているって言っているのは、桃の勝手な妄想だって!」
「うん」
「桃はこんなに素直で可愛いのに、アイツ、見た目で判断したのよ? 本当に許せない!」
「うん」

 クールだと思っていた友紀が、自分のことのように怒ってる。
 意外な顔を持つ友紀に、胸の中がぽかぽかした。

「ちょっと、さっきから同じ返事してるけど、ちゃんと聞いてる?」
「うん、ちゃんと聞いてるよ」

 私が笑って見ると、友紀は肩の力を抜いた。

「実はね、忘れ物しちゃて教室に戻った時、立ち聞きしちゃったの」
「・・・本当に?」
「うん、智とは別れた」
「桃・・・」

 その言葉に、友紀が不安そうな表情になる。

「・・・もう私とは仲良くしたくない?」
「ううん、仲良くしたいよ。でも、恋愛感情は持てないからね」

 出来るだけ軽く聞こえるように言うと、友紀がやっと微笑んだ。

「やだ! 半分は冗談よ」
「ええっ?」

 半分はって、半分は本気なの?

「よくある女同士の擬似恋愛みたいなものかもしれないけど、私、桃が好きだよ」
「・・・あ、ありがとう」
「ううん、こちらこそ」

 友紀のあっけらかんとした態度に、私も笑ってしまう。

 何だか変な感じ。

「私も今は友紀が1番大好きだよ」
「じゃあ相思相愛じゃない」
「友達としてね?」

 ちゃんとクギを指すと、友紀は残念と言いながら舌をぺろりと出す。

 こんなふうに、友達に対して言いたいことを言うのは友紀がはじめてだ。
 彼女なら、私の親友になるのかもしれない。