天使の林檎

 泣くつもりなんて全然なかった。
 酷いことを言われて傷付いたけど、傷は浅かったと思う。

 それでも、やっぱり智を好きだったのだ。

 友達と上手くいかなくなって、辛い時、いつも智が隣にいてくれた。
 彼を頼っていた。

 冷静になったなんて嘘。
 好意を持っていた分、智の言葉が辛かった。

 私はただ自分の気持ちを抑え込んだだけなのだ。

 それが彼からのきっかけで、蓋が開いてしまっただけ・・・。

 私のポケットで携帯が震える。
 また部長からだろう。

 心配してくれているに違いない。

 そう思いつつも涙はとまらず、私はその場にしゃがみ込んだまま、泣き続けた。




 最終的に、心配した部長が探しに来てくれた。
 しゃがみ込んでいる私を見つけ、美術室に連れていってくれたのだ。

 美術室には副部長が待っていて、私の様子に驚いたもののすぐに席を引いて座らせてくれる。

 2人は黙って、私が泣き止むまで何も言わずに背中をさすってくれた。
 2人の先輩の優しさに、声が出てしまう。

 私のささくれた心の棘が、声をあげて泣いた分、落ちていく。

 そうして私は自分の恋が終わったことを、受け入れることが出来た・・・・・・。



 
 私はこの時、初めての失恋から恋に臆病になってしまった。
 心の痛みが、私の周りに壁を築いたのだ。

 恋は、手に届かない光の小石・・・・・・。