天使の林檎

 衝撃に後ろに下がり、そのまま尻餅をついた。
 おでこに激痛を感じ、目の前がチカチカする。

「っ~~~~」

 おでこを押さえ、視線を前に上げれば、目の前にも同じように倒れて顔を押さえている人がいた。

 美術室は1号館と2号館を繋ぐ渡り廊下の途中にある。
 私はその渡り廊下に入る角で人とぶつかったらしい。

 痛みに耐えつつ相手を見れば、袖のラインがエンジ。

 私はオレンジだけど、これは私の学年色になる。

 エンジは私より1つ年下の学年。
 新入生だろう。

「ご、ごめんね。大丈夫?」
「大丈夫です。すみません。僕、全然前を見てなくて・・・」
 
 顔から手を下げて顔を上げた相手に私の動きが止まった。

 美少女は友紀で慣れたつもりだけど、美少年にはまだ免疫がなかったみたい。

 サラサラの黒髪はほんの少し長め。
 パッチリとした大きな瞳には、これまた長い睫毛に縁取られている。
 スッキリと流れる眉。
 スッと通った鼻筋。
 ふんわりと柔らかそうなピンクの頬。
 ふっくらと膨らんだ唇。

 まだあどけなさが残っていて、少年特有の曖昧さがなおいっそう綺麗に見せている。

 どこをとっても美少年。
 天使がいるなら、まさに目の前にいる男の子が天使のイメージに近い。

 ポカンと彼を見つめる私に、彼はほんの少し苦笑する。
 その表情で、友紀のことを思い出した。

 そうだった。
 彼も友紀と同じなのだ。

 きっと外見で判断されてきたはず・・・。

 私は慌てて視線をそらし、彼の体をチェックした。
 見た感じ出血らしいものはない。

「どこか痛むところはある?」
「いいえ。大丈夫です」
「じゃあ立てる?」

 彼は頷くと、ゆっくりと立ち上がった。
 私もそれに合わせて立ち上がる。

「ど?」
「本当に大丈夫です」

 あまりにも心配しすぎたかとも思ったが、彼より私の方が先輩である。
 年上としてはお姉さんぶりたい。