すぐ後ろから聞こえる足音に、戸惑いと期待が湧き上がったけれど、私の腕を掴んだのは明ではなかった・・・・・・。

「離してよ!」

 追いかけてきた涼に捕まり、立ち止まるしかなかった私は、涼に涙を見られたくなくて顔をそむける。
 掴まれた腕を必死になって振り解こうとしたけれど、やっぱり力ではかなわなくって、涼を振り払うことは出来なかった。
 
「明に・・・、別れようって言われたのか?」

 まるで予想していたかのような涼の言い方に、私はつい、涼の顔を見上げてしまったのだ。

 私が見た涼もまた、切なく哀しそうで辛そうな表情をしていた。

「・・・聞いていたの?」
「いや、聞いてない。今の言葉は今までの経過による予想」
「・・・・・・」

 予想と言われても、今の私の言葉を聞けば、それが当たっていることは涼にも判っただろう。
 だからこそ何も言えなかった。

「明は、俺と愛田との間に起きたことを全部知っていたんだ。だから別れを切り出したんだろう」
「・・・どういうこと?」

 私と涼の間に起きたことなんて、何もない。
 あったのは中学の時だけど、それが今になって何の関係があるのだろうか?

「俺が愛田をずっと好きだってことを、明は知っているんだ」
「涼が私を・・・?」

 突然の告白に、私は何も考えられず、涼の言葉をオウム返しに繰り返す。

「ああ」
「嘘!」
「嘘じゃない。初めて会った時から、俺はずっと愛田のことが好きだったんだ」

 初めて会った時から、ずっと?
 涼が好きだったのは奈保だったんじゃないの?

 つじつまの合わなくなった話に、私はさらに混乱するしかなかった。

「奈保は?」
「奈保の事はなんとも思っていなかった。・・・卒業の1週間前、奈保は俺に、お前が好きなんだろうって聞いてきたんだ。卒業の日に告白するつもりだったから、俺は素直に認めたんだが、奈保は俺の代わりに告白してやるって言って、止める間もなく行ってしまって、あんな事になった・・・」

 あんなこととは、奈保と私の揉め事のことだろう。
 少ない生徒数の廊下の中ほどにある、手洗い場ではでにしたのだ。
 いくらその場にいなくとも、涼だって知らないわけない。