翌朝、レッスン室で自主練習をしていた僕の所に松浦がやって来た。


「昨日はありがとう。あれから良く考えたんだけど、結果を出すのはもう少し先にする。美瑛に行くね。」

そう言いながら、松浦は僕の手に合宿の承諾書を握らせた。


(良かったぁ。)

僕はホッと肩で息を吐いた。


「よろしくね。」

「…うん!」


パサッ…カサカサ

レッスン室の開け放った窓から爽やかな朝の風が吹き込み、白いカーテンが揺れた。


「ねぇ、太一。碧海とウーチャンが来る前に、二人でデュエットやらない?」

ハッとして声のするほうへ顔を向けた僕の瞳にはピアノの前に座って微笑む松浦の姿が映っていた。
彼女は、小さく頷くとモーツァルトの練習曲を軽やかに弾き始めた。
僕は慌ててチェロを構え調弦もそこそこに彼女のピアノに旋律を重ねた。
喜びに満ちた胸の鼓動と共に、美しいハーモニーが音楽室に広がっていく。


いよいよ、僕たちの合宿が始まる…出発は明後日。