「そう、自分の意思とは反して、次々と色んなことを思い出して、考えてしまうんだよね。仕事の注文の内容、段取りなんかはいいにしても、依頼主の担当の女の面白くない態度とか、先輩の妙な口癖とか、全くつまらないことまで頭に浮かんでくるんだ。
それが三ヵ月続いたから病院へ行ったんだ」

「宮内総合病院へ?」

「いや、近所の内科に。一応、睡眠薬を処方されたけど、何の快復も感じられないまま、今度は発作が出るようになっちゃってさ。それで医者が宮内病院の神経科を勧めて来たわけ」

「普通に暮らしていたのに、急に病気になっちゃったんだ。大変だね。でも急になった病気は治りがいいようだよ」

私のように小さい時から神経科に掛かっているような人間は、大人になって医者から『もう大丈夫』と言われることは先ずない。

しかし病気にもよるだろうが、大人になってから急に発症した人は、割りと短い期間で治ってしまう事もあるようだ。