Valentine Fake(Intron crack企画)

記憶を頼りに、自動販売機の所を左折する。

覚えていなくて良い時ほど、不明瞭な記憶は正しい。

どうして自分がこんな事をしているのか分からなくなって、何故か笑みがこぼれた。

後ろの裕美にはきっと分からない。

やがて前方に見覚えのある二階建ての白い家が見えてきた。



「着いたぞ」

ブレーキ音を響かせて、俺は自転車を止めた。

降りやすいように、少しだけ車体を左に傾ける。

トンと靴音を立てて、裕美は小さく飛び降りた。


「ありがと……じゃあね」

うつむいたまま呟く。