本当は風人もなぜ奏多の機嫌が悪いのか理解していた。
 奏多とは大学での友人で、付き合いもそれほど長くはないが、あきらかに奏多は優子の友人を選んでいる。

 最初は赦しても、自分の意にそぐわない振る舞いがあると赦さない。
 その基準は、優子に対し、普通の友人以上に接触し始めると顕著に表れるのだ。

 下着の一件以来、風人は優子に頭が上がらない。
 出来るだけ優子に親切にし、恩を返そうと思っているのだが、それが奏多は気に入らないのだろう。

 優子に対し、恋愛感情はまだない。
 しかし、何かのきっかけでそうならないとは言えないぐらいは、優子に対し好意を持っていた。
 それんな風人の気持ちを感じ取っているからこそ、奏多が反応するのだ。

 今まで優子に彼氏が出来ても、友達以上、恋人未満だったのはすべて奏多のせいだろう。

 こうして優子に近づく異性を吟味し、入り込もうとする相手を排除する。
 奏多が不機嫌になると優子が気をつかって、さらに奏多にべったりになるのだ。
 それが悪循環を生み出し、結果、相手が諦めてしまう。

 今回も、優子は奏多にべったりだ。
 どうしたって大学の友人より、肉親の奏多を優先する。

 そのことに風人も気づいていたが、相手は普通の姉弟じゃない。
 この2人を引き離すには、並大抵な相手では出来ないだろう。

 優子が奏多よりも選ぶような相手でなければ、本当の意味で恋人同士にはなれないのだ。

「とんでもないボスキャラだよな・・・。やっと姫の元へ辿り着いてもボスがこれじゃ勝てないじゃんか」

 並んで前を歩く2人から少し離れて後を歩く風人は、小さな声でそう呟くと苦笑した。