蟷螂(かまきり)の秋

メロンでさえクラシックを聞かせると甘くなるのだそうだし、第一、虫には聴覚器官があるのだから、僕らの声が聞こえないはずがない。

ただ、一般的に声をかけただけはっきりこっちをみたと分かる虫にあまり合わないせいで、つい、虫も僕らの話を聞いているのだということに気づかずにいたのだ。

幼稚園で習う歌ではないが、虫だって生きていて、同じ地球の生き物なのだ。



それからも時々あっちの木やこっちの草の枝で緑色の濃くなった姿を見かけた。

その後は旨く餌にありつけただろうか、と横取りした自分は勝手に心配した。

彼か彼女はだんだん茶色くなって腹回りが太くなったように見えた。

朝顔の花摘みをしているときに、思わず彼か彼女の直前の花柄を摘んでびっくりさせてしまった。

私もびっくりした。

相手が人間なら、二人で顔見合わせて笑った、というシーンかもしれない。

彼か彼女を私はだんだん高い枝の上で見かけなくなった。

そうして、ついに、私が心ひそかに危惧していたさよならの日は来てしまったのだった。

本来この後の仕事の担当者は、蟻やバクテリアの類なのだろうが、大きな蟷螂は簡単には土に返らない。

だんだんプランターの中で黒ずんでいく彼か彼女を放置しておくのも気の毒になり、庭に小さな穴を掘った。

彼か彼女がこの夏よい相手に出会うことが出来ていれば、次の春には、また、T字型の小さな生き物が、庭の枝葉の上を闊歩し始めるだろう。