風が、心地いい。真夜中に一度目を覚ましたけれど、そのときは、もっと、空気が尖っていた。けれど、今は違う。柔らかく、そっと撫でて行くような風だ。もしかしたら、夜が明けたのかもしれない。どこかで太陽が昇って、ゆっくりと、空気が暖められているのだろう。
 わたしは、ゆっくりと寝返りを打って、そっと目を開けた。
 と、自分の上に、何かが掛けてあることに気がついた。温かいと感じたのは、このおかげなのかもしれない、けれど、自分のではないし、誰かが掛けてくれたような記憶もない。戸惑いながらゆっくり上半身を起こして、その、体に掛けてあったものを、まじまじと見詰めた。見覚えが無い。誰のだろう? マサユキ? まさか。それは、あり得ない。彼がこういうのを着ているのを見たことがないし、それに、逃げたわたしが、こうしているのを見つけたとして、起こさずに、黙って掛けてくれるような分別を持ち合わせているだなんて、思えない。
 顔を上げて、キョロキョロと辺りを見回す。と、そのとき、いきなり、隣の寝椅子に居た人物と、目が合った。こちらを向いて、座っている。
「!?」
 わたしは、あまりに驚いて、慌てふためいたおかげで、思わず、椅子から落ちてしまった。砂に尻餅をついて、その衝撃で、完全に、目を覚ました。
「……いたたた……」
 思わずそう呟きながら、わたしは、座り込んだまま、足やお尻についた砂を振り払った。
「ほら」
 ジルが、手を差し出している。
 わたしは、遠慮がちに、その手に掴まりながら、椅子に、座り直す。
 しなやかで、温かい、手。