静かに目を閉じる。 瞼に浮かんでくるのは、 極彩色のプーケットの街並。 八百屋、雑貨屋、ドーナツ屋、 原色に彩られたそれらの店の様子や、 街角の看板の絵柄。 そして、島のあちらこちらで見かけた ブーゲンビレア。 スコールに濡れる、 ゴム畑の一面のグリーン。 それらが、まるで今映画でも見ているかのように、 浮かんでは消えて、そしてまた表れる。 あまりのその臨場感に、 わたしは、一瞬、 自分がどこに居るのか、 立っているのか座っているのかさえ、 分からなくなってしまいそうだった。

　それは、大学２年の晩夏。 　 　夏から秋の空気に塗り替えるかのような、土砂降りの雨の降った、その日。 　 　夏の間だけの、まるで、綿飴のような恋を失ったのと引き換えに、ある再会を「拾った」。 　痛みすら覚えるような、片恋の記憶。 　 　その想いとともに、雨音の中、再び動き始めた、片恋の、記録。