思わず立ち止まってじっと見てみると、それは、女性のようだった。ノースリーブのワンピースを着ている。大振りの花の模様の入った、その長めのスカートには、見覚えがあった。寝椅子の下に、無造作に転がっているサンダルにも。
 目を疑いながら、そっとその女性に近づいて、ジルは、もっと、自分の目を疑った。
 それどころか、自分が、もしかしたら夢の中に居るのかもしれない、とさえ思った。けれど、これは現実だった。
 目の前に、なぜか、ウイコが居る。
 ジルは、辺りを見回した。あの男とここで夜を過ごして、そして、男は、今、何らかの理由で、ちょっと席を外しているだけではないだろうか、と思ったのだ。けれど、そんな気配はなかった。それに、もしそうだとしたら、ウイコが、何も羽織らずに寝ているわけなはい、と思った。常識から考えて、女性がこんな早朝、肌寒いときに外で眠っているのを、何も掛けてあげずに放って行くだなんて、そんなわけはない。もっとも、あの男の常識がいかほどか、想像に難くないところでもあるけれど。
 そう思いながら、ジルは、自分のウインドブレーカーを脱いで、ウイコのむき出しの肩に、そっと掛けてやった。
 それにしても、気持ち良さそうに眠っている。眠れない夜を過ごしたジルには、悔しいぐらいだった。
 ジルは、その場を立ち去り難くなって、仕方なく、隣の寝椅子に腰を掛けた。
 どうして、こんなところに……?
 訳が分からないのと、拍子抜けしたのとで、何だか、ジルまで眠くなってきてしまった。横になりたい衝動に駆られたが、今横になったら、間違いなく、眠ってしまうだろう。その衝動を必死でこらえながら、大欠伸をしつつ、じっと、座ったまま、ウイコを見守っていた。