砂浜を散歩でもして、日の出を待とうと思ったのだ。
 これ以上、独りでベッドに横になっていたら、おかしくなりそうだった。

 外は、思ったよりも、まだ、空気が夜の気配を漂わせていた。
 街も、まだ眠りきってはいない。
 ビーチには、昨晩結ばれたらしきカップル達が、ぽつりぽつり、点在している。彼らは、身を寄せ合って寝椅子に腰掛け、何やら囁き合っているのだ。
 ジルは、そんな彼らをなるべく見ないようにしながら、波打ち際を、ずっと歩いて行った。波音と、自分の足が、砂を踏みしめる音、それだけを聞きながら、とにかく歩いた。
 しばらく行くと、空が、だいぶ明るくなってきた。
 辺りの色が、紫色に染まり始めていた。何だか、幾分気持ちが楽になってきて、ジルの足取りも軽くなってくる。途中、野良犬と擦れ違ったり、ジョギング中の欧米人と擦れ違ったりした。やっと夜の街が眠りにつき、朝が、始まろうとしている。
 とそのとき、自分が、いつの間にか、パトンビーチの端まで来てしまったことに気がついた。ずらっと並んでいた寝椅子はそこまでで途切れ、目の前には、ごつごつした岩と、木々が広がっている。ホテルへ引き返そうと身を翻したとき、ぽつんと離れた寝椅子に、誰かが横たわっているのが見えた。