車道に出ても、ジルの姿は見当たらない。
 けれど、後ろからマサユキが追いかけてきていたので、わたしは、逃げるように、とにかく走り続けた。息を切らしながら、車道を横切って、ビーチへと抜ける道へ出た。そして、寝椅子の並ぶ砂浜へと逃げ込む。
 けれど、そこへ来て、愕然とした。
 月明かりと、遠くに浮かぶ客船の灯りと、海沿いの道をひた走る車のヘッドライトだけ。そんなわずかな明るさの中で、ジルの姿を捜すのは、困難だった。
 見回してみるも、寝椅子に座っている人影は分かるものの、それが誰なのかは全然分からない。至近距離にまで近づいて、顔を覗き込んでみるしかない。ビーチには、ざっと見渡しても、30人は居る。一人一人確認するだなんて、そんなの、不可能だ。
 なんだか、どっと疲れが出てきてしまって、しばらく歩いた後、そこにあった寝椅子に座り込んだ。サンダルも脱いで、素足を、砂浜に埋める。地面は、昼間の太陽の熱を吸収していて、まだ温かい。
 そのまま、しばらくじっとしていると、波の音が、大きく聞こえてきた。わたしは、ふと夜光虫のことを思い出して、裸足のまま、水面近くまで、歩いて行った。
 するとそこには、エメラルド色の波が、打ち寄せて来ていた。
 驚いて、思わず後ずさると、また少し沖の方で、一部分が、青く光る。
 なんて美しいんだろう、と心の中で感嘆しながら、じっとその場に立ち尽くして、不思議な光景を見詰め続けた。ずっと、何時間でも、こうして見ていられそうなぐらい、それは綺麗だった。いつの間にか、さっきあったことなんて、これぽっちも気にしていない自分が居る。