幸い、ロビーからは少し離れているところに居るので、他の人に聞かれずに済んだ。
 けれども、ジルは、肩をすくめると、一歩後ろに身を引いた。
 いつの間にか、繋いだ手は離れている。
「そういうこと……か。君も、彼女らと変わりない、ってことだね」
 そう言うジルの瞳に、失望感がありありと見てとれた。
 胸が、まるで壊れてしまいそうなほど痛む。
 わたしは、ショックで何も言えずに、ただじっと、ジルの瞳を見詰めていた。
 何か言わなくちゃと思うのに、そう思えば思うほど、頭の中が空回りしてしまう。
「さぁ、行こう」
 マサユキは、わたしの手を強引に掴むと、ロビーの方へ歩き出した。
 仕方なく、引っ張られるようにそっちへ行きながら、ジルを振り返った。
 ジルも、身を翻して、玄関の方へ向かって歩いて行く。
 そして、あっという間に、姿が見えなくなってしまった。
 そのとき、わたしは、咄嗟にマサユキの手を振り払って、ジルを追いかけた。
 後ろから、マサユキが何か叫んでいるけれど、それも、もう聞こえない。何を言っているのか分からない。ただ、ジルの背中を捜して、わたしも、玄関の方へ走った。