「……ウイコ?」
 ジルが、不思議そうに、わたしを見た。そして、わたしが見ている方向に気付いた。
 そして、そこには、1人の、日本人男性が立っていた。彼も、わたしに気付いて、にっこり笑うと、こちらに大股で歩いて来る。
 離れそうになった手を、繋ぎ直そうとするのに、うまく手に力が入らない。
「ウイコ! ずいぶん捜し回ったんだよ」
 その男は、そう言いながら、ジルの存在を無視するように、わたしの頬を撫でた。
 反射的に、わたしは、その手から逃れるために、顔を背けた。
「……あなたは?」
 ジルは、怪訝そうに、そう訊く。
「ウイコの、彼氏だけど?」
 男ーー自然消滅になっている、彼、マサユキだ。
 わたしの中では、こっちに来てしばらくたって、やっと、自分の中で、過去のものとして区切りがついた存在だった。
 仲間内でも、わたしがここに滞在していることは、殆どが知らないことだった。だから、彼がここに現れるだなんて、考えてもみなかったことだった。
 本当?ーーと、問いかけるように、ジルは、わたしを見る。
 わたしは、首を横に振りながら、
「もう終わってる。元カレ、よ」
 わたしがそう言うと、マサユキは、激昂したように、
「いつ終わったんだ? 別れた覚えはないし、ここまで捜しに来た僕の立場はどうしてくれるんだ?」
 と、すごい剣幕で、そう捲し立てた。