店の外に出ると、また、南国の空気が戻って来た。花々のむせ返るような匂いも。
 また部屋まで送ってくれるのだろうかと思いきや、ジルは、部屋とは反対方向、ホテルの出口へ向かって歩いて行く。
「ビーチへ行こうか」
 ジルは、くるりと振り返って、そう言った。
 わたしは、頷いて、急いでジルに追いつくと、一緒に歩き始めた。
「夜光虫、見えるかな」
「ああ、きっと見えるよ」
 ジルは、そう言いながら、わたしの手を握った。何だか、その手が、とても頼もしく思えて、ただ手を繋いでいるだけなのに、体中が護られているような気持ちだった。本当に、ジルの手は魔法みたい。自然に、頬が緩んでくる。やっぱり、わたし、この人が好きなんだ。
 ホテルの玄関へと通じる通路を行こうと、ロビーの前を横切ったとき、一瞬、何者かの視線を感じた。ふとそちらの方を見て、向き直りながら、その途中、思わず、再びそちらの方を見直してしまった。
 そして、思わず、足を止めた。
 というよりも、体が硬直してしまった。
 居るはずの無い人が、そこに、居たのだ。