「……そうよね。わたしも、驚いたもの。彼女達、ああいう場所で遊ぶのがシュミみたい。海外に出て来た、ってことの開放感かもしれないけど」
「でもやっぱり、君だけ浮いてたよね」
 ジルが、またクスクス笑って、そして、やっとポテトに手を出した。
「わ、わたしは……。ああいうの、全然シュミじゃないから」
「僕もだ」
 わたしも、1つつまみながら、目を丸くした。
「買ったんじゃなかった? 女の子を。あの晩」
 ジルは、眉間に皺を寄せながら頭を振ると、
「あれは、頼まれたのさ、あの子に。ここから、抜け出させて欲しい、って」
「じゃぁ……あの後……」
「外へ出て、そのまま別れて、で、僕だけ戻ったんだよ」
 そう、だった。マリ達が、そう言っていたっけ。
 これで、辻褄が合う。
 わたしたちは、一瞬、じっと見詰め合った。
 彼の不思議な色の瞳に、その一瞬で、吸い込まれてしまいそうになって、思わず、わたしは目を反らした。辺りの喧噪が、いつの間にか、全然気にならなくなっていた。店内の、過剰にけばけばしい装飾も。
 少し俯き気味で、わたしは、ジルがさっき置いたマッチ箱とコースターを見ていた。
 あのとき、gardensからずっと、ジルは、わたしの跡を追ってくれていたのだ。身を案じて。そのときのジルの気持ちを考えると、やはり、この間、誤解とはいえ、ジルに対してとってしまった態度が悔やまれた。謝っても、ジルの気持ちに報いることはできないような気がした。
 ジルは、バーテンに何か合図をして、ポケットから財布を出していた。
 出るつもりだろうか。じっと見ていると、ジルは、バーテンに代金とチップを払って、立ち上がった。そして、まだじっと座っているわたしを促して、店を出た。