わたしが知っているのは、彼が、タイ古式マッサージ店で働いているということぐらい。
 あ。と、思わず、わたしは、声を出していた。
 それを知っているじゃない。だったら、そこへ行ってみるしかない。
「パイマイ?(行かない?)」
 そう思った瞬間、トゥクトゥクの運転手に、そう、声を掛けられた。
 不思議だけれど、タイって、わたしにとって、そういう場所だ。まるで、魔法にかけられているような気がする、そんな場所。だから、きっと、こうして、わたしは、あてもないような人探しを、してしまうのだろう。
「あ……。プーケットタウン、タウライ?(プーケットタウンまで、いくら?)」
「ハーロイバーツ」
「500バーツ!?」
 冗談じゃない、というように、わたしは、思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。
 嫌ならいいよ、とでもいうように、そのトゥクトゥクは、走り去ろうとする。けれど、そういえば、わたしは、パトンからタウンまでの相場を知らない事に気がついて、
「コーロー!(待って!)」
と、慌てて言った。
「サムロイバーツ(300バーツ)」
 分からないけれど、とりあえず、値切ってみる。
「……シーロイハーシップバーツ(450バーツ)」
 きっと、夜だということもあって、深夜料金を吹っかけたりしているのかもしれない。
 そういう猜疑心もあって、わたしも、納得できないでいた。この期に及んで、と言った感じ。もう1人の私は、早く決めてしまえ、と言っている。
「シーロイバーツ(400バーツ)」
「トックロン(オーケー)」
 ということで、400バーツで妥協して、タウンへと急いだ。