さっき、ホテルを出るときには、気持ちが昂っていたこともあって、パトンという小さな街で、彼を捜す事が、まるで、コップの水の中の小石を見つけるように、容易いことのように思えていたのだ。
 それが、今では、夜の海の中で、落とした指輪を捜しているような、そんな気分だった。薄らと月明かりに照らされた、静かな海を、あてもなく潜って、
当てずっぽうに、手探りしているような。

 やがて、街の外れに差し掛かって、わたしは、本能的に足を止めた。
 目の前にあるのは、廃墟と化した、ボーリング場。
 これ以上行っても、観光客向けの店らしい店は、ありそうもない小道が、そっと続いている。遠くの方に見える灯りは、明らかに、現地の住民が生活するためのものだった。何だか、わたしのような余所者を、拒絶しているかのように、それは、偶然、見つけたその瞬間に、消えた。
 そういえば、この辺りを昼間に歩いたとき、立て看板があったっけ。この辺りは危険だ、というような注意書きがあったような気がする。
 くるりと回れ右をして、わたしは、また、きらびやかな街の方へと歩き始めた。
 
 幸い、ほんの100メートルも歩かないうちに、元の、賑やかな場所へと入ることができた。少しホッとするものの、それほど気持ちは穏やかではない。少し、自分に対して、腹立たしさも感じ始めていた。なぜ、こんな風に、ここへ来てしまったのだろう。偶然、ばったり、逢えるとでも思っていたのだろうか。それとも、gardensの意地悪なウエイターが、親切に、彼の名前と滞在先をメモしてくれるとでも?