「なのに、あのヒト、あの後すぐ戻ってきたンですよ」
「そうそう、ちょうど、ウイコさんが帰ってすぐ」
「……あのヒト?」
 やだぁー、と言いながら、2人は身を捩らせ、
「分かってるくせに。あのモテ彼と、お知り合いだったんですね」
「!!」
 もしかして、あの「彼」のことだろうか。彼女らの言い方からすると、きっと、そうだ。
 戻ってきた、って……一体??
「わたしたち、話しかけられたんです、彼に。『ウイコは?』って」
「彼、ウイコさんが居ないって分かると、顔色変えちゃって、また外へ飛び出しちゃったんですから」
「で……、その後は?」
「いいえ。もう戻ってきませんでしたよ。てっきり、ウイコさんに会えたのかと思ってたんですけど」
「会って……ないわ。まっすぐ帰ってきたから」
 上の空でそう答えて、わたしは、無意識に、深呼吸しようとしていた。
 頭の中が、酸欠状態。
 買った(はずの)彼女はどうしたの?
 どういうこと?
 待って、待って、待って、待って。
 (彼女たちの言った通りだとしたら)どうして彼は、わたしの名前を知っていたの?
 わたしは、彼の名前さえ、まだ知らないというのに?
 朗らかに笑い合いながら、上機嫌で部屋に戻って行く彼女たちの、そんな後ろ姿を見詰めつつ、わたしは、大混乱に陥っていた。
 あの、後……彼が戻って来た、って??
 どうして……。
 とそのとき、今日の、彼との軽い喧嘩を思い出してしまった。そして、思わず、息を呑む。
 そして、自分がいかに小さな人間であるのか、ということを、がつーんと、思い知らされてしまった。