かといって、部屋に帰る気にもなれず、一人で、プールサイドや、庭を、散歩していた。日没後は、ライトアップされて、そこは昼間とはまるで違う表情を見せるのだった。人が少ないせいもあって、流れる水音がロマンチックで、トロピカルな草花の匂いが辺り一面に漂っている。
 プールサイドのバーも閉まり、泳いでいる人も居ない。居るのは、清掃作業中の職員だけだ。彼らも、わたしが散歩を楽しんでいるのを見てとると、気を利かしてか、ささっとどこかへ消えてしまった。パラソルを畳んだ寝椅子に腰掛けて、プールを囲むように建っているウイングを見詰めた。そこは、スイートルームのみのウイングだ。わたしの部屋は、そこの7階。
 何だか面倒臭くなって、わたしは、寝椅子に寝転がった。そして、漆黒の空を見上げる。ここでは、波音はしない。その代わり、虫の声が、うるさいぐらいに聞こえてきていた。カエルの鳴き声も、混じって聞こえてくる。このホテルは高台を利用して建てられていて、このウイングの裏側は、まだ手つかずの山そのものなのだった。
 目を閉じると、ふと、すぐ傍に、人の気配を感じた。
 思わず、目を開ける。そして、起き上がってみた。……誰もいない。首を傾げながら、キョロキョロしていると、
「わっ!!!!」
 と、いきなり、後ろから背中を押された。
 心臓が跳ね上がる程ドキッとして、思わず、怯えた表情で振り返ると、そこには、昨日一緒にゴーゴーバーへ行った、マリとアキが居た。またどこかで飲んできたのか、アルコールがプンプン匂っている。わたしが驚いたのを喜んでか、彼女達は、上機嫌で笑い合った。わたしは、ホッと胸を撫で下ろすと同時に、どこか残念がっている自分に気がついた。
「昨日、大丈夫でした?」
 本日2度目の質問。
 わたしは、今度はちゃんと笑顔で頷くことができた。
「もちろん。だって、トゥクトゥクを拾うだけだもの」
 ですよねー、と、2人は朗らかに笑った。わたしも、つられて同じように笑う。