「ごめん、相部屋になっちゃったみたいだ」
 そう言いながら、彼は、マットレスの間にあるカーテンを引いた。
 カーテンを引く前から、隣では、即座に、慣れた会話のやり取りが聞こえてきていた。タイ語同士なので、何を言っているのか分からないけれど、馴染みの客であることは間違いなさそうだった。
 こちらも、マッサージを再開するものの、途中に邪魔が入ったせいか、何だか変な感じだった。しかも、隣は結構大きな声で、盛り上がっている。わたしたちは、時折、視線を合わせるものの、何だか話しづらくて、わたしは、幾つもの言葉を飲み込んだ。
 ふと、昨夜の出来事が、頭の中をよぎる。
 あの後、どうしたのだろうか。もしかして……。際どいことを考えそうになって、思わず、方向転換をする。
 こういうときって、偶然、相手も同じ事柄について考えていたりするものだ。彼は今、わたしの頭部のマッサージをしていた。規則正しい間隔で、規則正しいリズムで、指圧していく。本当に、彼の指は魔法のようだった。その気持ち良さに、昨夜の出来事も何もかもが、意識の遠くへ押しやられようとしていた。
 と、そのとき、
「……昨日のことだけど……」
 彼は突然、そう言いだした。