「ここです、ここの、2階が、そうなんです」
 わたしは、へ?と見上げながら、バイクから降りた。少し、足がふらふらしている。
 ガイは、わたしを支えながらニコニコして、行きましょう、とばかりに、前を歩き始めた。わたしも急いでその背を追いながら、その建物を見上げた。ずずいと伸び上がるその建物は、だいたい、30階ぐらいはあるだろうか。ビル全体が鏡面仕上げになっていて、周りの太陽光線やら空やら景色やらを、全て飲み込んでそして、同時にそれらを吐き出しているかのようだった。とにかく、異様に光っていて、異様に大きい。
「これ、何?」
「ああ、ホテルなんです。ホテル附属のマッサージ屋なので、ダイジョーブ」
 自信ありげにそう言いながら、ガイは、目の前に現れた階段を上り始めた。鏡面仕上げの壁に対して、白亜の階段。それを上りながら、わたしは、バイクを見下ろした。送迎というので、てっきり、車かと思ったら、バイクだったのだ。ガイの話によると、ここはプーケットタウンの真ん中だというので、ホテルからは、かなりの距離だ。途中、たくさんの丘を越えてきた。まるでジェットコースターみたいな数十分を味わって、膝が、ガクガクしている。
 階段を上りきると、目の前に、ドアがあった。
 チラと見ると、2階部分の窓は、全て、スモークが貼ってあるので、真っ黒。それに、夜は派手に光るであろう看板が、昼間の太陽に照らされているさまは、どこか退廃的だった。「大丈夫」と言われても、怪しげな印象は拭えない。
 しかも、ガイに続いて入った店内は、明るいものの、入ってすぐのところにガラス張りの部屋があって、その中には、ひな壇のようなところに、ずらっと女性達が並んで座っているのだ。その胸には、番号札が付けてある。細かい説明を受けなくても、一体どういう意味なのかがわかる。何だか、少し、怖くなってきた。