……雨音。

島では、さっきまで晴れていたと思ったら、たちまち窓ガラスに大粒の雨粒が叩き付けられる。そして、ほんの少し待つだけで、また、何事もなかったかのように、青空と灼けつくような太陽光線が戻ってくるのだ。そして、全ての物が、それ以前に増して輝き始める。

スコールの前後は、わたしは、大きな窓のあるクラブハウスで過ごすのが好きだった。
ホテル内にあるそこは、限られた人しか出入りせず、いつも静かで、誰も何も邪魔しない。わたしはよくそこに行って、その大きな窓から見える、黒雲が近づいてくるさまを何気なく見詰め、そして次第に湿り気を帯びて行く窓ガラスの向こう側を観察しながら、喉の乾きに任せてビールを飲んでいたのだ。

たったひとりでそうしながら、カウンターの中の、従業員同士の他愛もないお喋りに耳を傾けているのが好きだった。タイ語なんて全然分からないから、それは、全く邪魔にならない音。それどころか、いつの間にか、その流麗な響きを、心のどこかで欲するようにまでなっていた。


ガランとした、一人には広すぎるスイートの自分の部屋に戻り、半ば機械的にテレビを点け、そして、地元の番組を掛け流す。そして、薄暗くなりつつある空を横目に、キングサイズのベッドに仰向けに横たわりながら、四肢を最大限伸ばし、そのままじっと動かずにいるのだ。それが、滞在中のわたしの日課でもあり、全てだった。

自堕落な生活をしようと意気込んで行ったタイで、わたしの生活は、何の節目も目的も持たない、時間を垂れ流すだけのようなものだった。
朝は陽が高く昇ったころに起き出し、まだ朝食ビュッフェを開いているカフェへ行って、お腹いっぱい食べると、そのままプールへ直行して、寝椅子に寝転がって、サングラスの奥から、皆が遊んでいるのを見詰めるのだ。ただ何となく。そして、それに飽きると、部屋に戻って水着に着替えて、その上から柔らかなワンピースを羽織り、ビーチへ繰り出すか、クラブハウスへ行くかのどちらかだった。