思いきって扉を出ると、外は、さっきよりも、幾分か空気が冷えていて、パニックに陥りそうになっていた頭の中も、少しスッキリしてきた。
 何かから逃げるように、半ば走るようにして街中を抜けると、一番先に目に留まったトゥクトゥクを拾って、そのまま、ホテルへと戻った。

 トゥクトゥクに乗っている最中も、胸のドキドキがおさまらなかったけれど、ホテルのロビーの灯りを見たら、やっと、何だか安心できるような気がした。
 全身に、嫌な汗をかいてしまった。額にも、汗が浮かんでいる。手の甲でさっと拭きながら、ロビーへと入ると、偶然、ガイに会ってしまった。
「お帰りなさ……い……?」
 明らかに動揺しているわたしの表情を見て取ったのか、彼の顔が、怪訝そうに曇る。
「ーーただいま」
 むりやり笑顔を作って、そう言うと、フロントで鍵を受け取った。
 鍵を出してくれたのは、日本人の女性スタッフ。ちょうど、今日、ツアーを勧めてくれた人のようで、どうだったか、感想を聞かれてしまった。少し、返事に窮してしまったわたし。でも、ツアー自体は、とても素晴らしいものだったので、そのまま伝えると、
「少しお疲れになったようですね。後で、ホットミルクでもお部屋に運ばせましょうか?」
と、彼女は微笑んだ。
 疲れているけれど、神経は昂ったままなので、きっと、そうしてもらえると、すんなり眠れるだろう。わたしは、素直にお礼を言って、部屋へ戻った。