それは、何と、あの、彼だった。向こうが気付く前に、咄嗟に、顔を背けたものの、思わず、改めてチラっと見てしまった。
 彼は、タバコに火をつけているところだった。
 何故、彼がこんなところに……??
 わたしは、ショックを受けている自分を誤摩化しきれずに、思わず、眉間に皺を寄せた。
 どういうこと?? 女の子を買いに来たってこと??
 ……どういうこと??
 わたしは、再び顔を背けて彼を視界から消すと、思わずぶっ倒れそうになっている自分に気付いた。今日は殆どアルコールの類を飲んでいないのに、クラクラしているのだ。
 もしかして、彼は、そこに座って、好奇の目でストリッパー達をじろじろ見たり、胸に番号を付けた女の子たちを、どの子にしよう、と値踏みするように見たり、しているのだろうか。
 気になって、チラと彼の方を、またもや見てしまう。
 けれど、彼は、まだ、じっと座ったまま、ただ、タバコを吹かしている。その表情は、長い髪が邪魔になって見えない。
「ねえ、あなたは? どう思う? 3番? 5番?」
 もう一人の女の子、アキに話しかけられて、はっと我に返るわたし。
 けど、はっきり言って、どうだっていい。けれど、その場を盛り下げるシュミもないので、適当に、5番、と答えた。
 その時、ウエイトレスが近づいて来て、そっと、わたしのオレンジジュースの隣に、一杯のカクテルを置いて行った。同じテーブルの、他の人達は、気付いていないようだった。わたしは、そのグラスを見るやいなや、ハッとして、それをすぐに一口飲んでみた。
 ……ピニャコラーダ。
 思わず、彼を見た。彼は、こちらを見ずに、さっき運ばれてきたらしい水割りを飲みながら、タバコを吹かしている。
「ごめんなさい、ちょっと、お手洗い」
 ガタン、と突然席を立つと、わたしは、レストルームへ向かった。