1時間の遅れがあったものの、やっとのことで帰りの便に乗り込み、ジーパンから、楽なパンツに履き替えて。
そして、お化粧を落として。
それから、毛布を膝にかけて。
そこで初めて、ホッと安堵の息を漏らした。

機内の照明は落とし気味で、周りの人は、眠りにつこうとしていた。
わたしも例外ではなく、シートに身を預けると、そのまま目を閉じた。

機内には、オーキッドの匂いがほのかに漂っている。

すると、瞼に浮かんでくるのは、極彩色のプーケットの街並。
八百屋、雑貨屋、ドーナツ屋、原色に彩られたそれらの店の様子や、街角の看板の絵柄。
そして、ホテルのロビーで従業員が身につけていた、金糸で織り上げた、タイの民族衣装。
島のあちらこちらで見かけたブーゲンビレア。
スコールに濡れる、ゴム畑の一面のグリーン達。

それらが、まるで今映画でも見ているかのように、浮かんでは消えて、そしてまた表れる。あまりのその臨場感に、わたしは、一瞬、自分がどこに居るのか、立っているのか座っているのかさえ、分からなくなってしまいそうだった。