そのツアーの締めくくり、ディナーは、わたしが独りで参加したというせいもあって、彼と2人のテーブルだった。
 夕飯の間中、彼は、信仰の話や、自分が出家したときの話をしてくれた。わたしも、知りたいことを、たくさん質問して、何だか、久しぶりに、たくさん話をした気がした。
 おかげで、余計なことを考えずに済んだし、たくさん会話をしたせいで、すっかり、気持ちが楽になっていた。お酒を飲んだわけではないーーこの間のことがあるので、今日はやめておいたのだーーのに、帰る頃には、他のお客達と気楽に言葉を交わしたり、何だか、すごくオープンに、なっていた。

 そのおかげで、本当は、そのままホテルに帰って眠るつもりだったのに、カップル2組グループに付き合って、パトンの街で一緒に降りてしまった。降り立ったところの目の前が、何という偶然か、最初にあの彼と出会ったレストラン"gardens"だった。なるべく店の方を見ないようにしながら、足早にそこから遠のく。彼らも、どうやら目当ての店があるらしく、ゆっくり街歩きを楽しむというよりは、その店へ急げ、といった感じだ。
 そして、ほどなくして、その店の前に着く。けれど、そこに立って、思わず、わたしは中に入るのを躊躇してしまった。
 見るからに、『怪しい』空気が匂ってくるかのような、店構え。
「ここ、女性も入れるの?」
 思わず、一緒に居た女の子ーーマリというらしいーーに、コソコソと訊く。その子は、ふふっと笑って、
「平気、平気。明朗会計だし、結構楽しいの。退廃的な空気を味わえて、しかも、女の子も歓迎、なのよ」
 そう小声で耳打ちするように言うと、マリは、先に入って行ってしまった。わたしも、その後に続いて入って、思わず、ぎょっとした。そこは、停電かと一瞬思ったほど、真っ暗なのだ。けれど、すぐに目が慣れてきて、何がどうなっているのか、段々分かってきた。