「降るなぁ」
 彼はそう言いながら、膝を抱えた。うん、と答えながら、今度は、わたしは、どうやって、どのタイミングで帰ろうかと、悩み始めた。この雨の中、濡れながら、じゃぁどうも、なんて急に帰るのは可笑しすぎる。彼は、どうするのだろう。さっきのタオルを頭から被れば、走って帰れなくもなさそう。あ、でも、上着をわたしが借りているから、これを返さないことには、彼も動きがとれないだろう。
「……」
 少し考え込んで、わたしは、彼の上着を脱ぐと、彼に差し出した。
「もう、大丈夫だから」
 そう言っているハナから、実は、鳥肌がバババッと立っている。彼にもそれはお見通しのようで、チラとわたしの腕を見遣りながら、それを、受け取った。そして、無理矢理平気そうな顔をしているわたしを見て、そして、仕方なさそうにため息をつくと、やっと、上着に腕を通した。
 何だか不思議だった。その上着、わたしの肩に掛かったときは、とても柔らかく感じたのに、彼が着ると、たちまち、カチッとした、固い布地で出来ているように見えてくる。
 わたしは、足下のカーディガンを取って着ると、スカートを押さえながら、慎重に、膝を抱える。すると、何だか、急に切なくなってきた。隣では、彼が、また水をゴクゴクと飲んでいる。 
 それから、どのぐらい時間が過ぎたのだろう。
 相変わらず雨は降り続いて、そして、わたし達は、ほとんど言葉を交わさないまま、どこへも行かずに、そこに座り込んでいた。周りには、さっきまで、わたし達と同じように、パラソルの下で雨宿りする人達が居たのに、今は、もう、わたしたちと、もう一組ぐらいだった。その一組も、よく見てみると、ベタベタと、自分たちの世界に入り込んでいる。
 ちょうどそのとき、背後から、砂浜を踏みしめる足音が聞こえてきた。