ザザーッ。
沈黙。
再び、ザザザーッ。
そして、また沈黙。

日没後の砂浜で、わたしたちは、寝椅子に寝転がっていた。
そうして、ただ、月明かりに照らされた海面を見つめていた。
他にも、そうしている人たちがたくさん居て。
それはまるで、街の喧噪での疲れを、癒そうとしているかのようだった。

ここは、さっきの、賑やかな通りから、数分歩いたところにある砂浜。
じっと耳を澄ませると、波音の合間に、遠く、かすかに、喧噪が聞こえる。
そして、ビーチのすぐ隣を走っている道路は、渋滞しそうなほどの交通量。
実は、それほど喧噪から遠ざかっていられる場所ではないのだけれど。
それでも、人でごった返した、賑やかなメイン通りよりは、全然ましだった。

日本なら、花火大会のある海辺、それを想像すると、似たような感じなのかもしれない。
とにかく、真夜中だというのに、尋常ではない人出で、それがここらでは常識だというのだから、恐れ入ってしまう。

わたしは、伸びをして、伸ばした足の先を、少し動かしてみた。
気持ちがいい。
夜風がちょうどいい具合に吹いてきて、足下から顔へ、なで上げて行く。
余りの気持ちよさに、思わず目を閉じた。
そして、少し、うとうととしてしまう。

すぐ隣の寝椅子には、さっきの彼が、寝転がっている。

わたし達の間にある隙間を、心地よい風が吹いていた。

店を出て、彼に連れられるまま、ここまで来た。

雑踏の中、彼の背中を追いかけながら、どうしてこんなことをしているのだろう、と問いかけ続けていた。

でも、分からない。

初対面の彼に、のこのこと付いてきてしまったことを、疑問に思いながらも、此所まで来てしまった。
しまった、と思いながら。
こんなことをすべきではないのに、と思いながら。