ジルは、顎から頬に、そっと指を滑らせる。でもわたしは、もう、俯いたりはしなかった。じっと、ジルの目を見詰めていた。
 このときが、永遠に続けばいいのに、と、型通りのことを思う。
 すっかり夜は更けて、今日がもうすぐ終わろうとしているのだ。
 シンデレラの気持ちが、少し、分かるような気がした。
 12時の鐘が鳴るのを、わたしと似たような心境で、恐れていたのだろうか。
 と、ぼんやり考え込んでいる間に、ジルの瞳は、いつの間にか至近距離に迫っていた。
 そして、そのきらきら、が、ふっと消えた。
 と思った次の瞬間には、唇に、温かくて柔らかな感触が重なった。
 そっと優しく、幾度も唇が重ねられる。その度に、わたしは、まるで初めてキスをする女の子のように、ぎこちなく応じながら、心臓が、飛び上がるほどドキドキとしていた。
 すぐ側に居て、触れ合っているのに、互いの存在を確かめないと気が済まない、とでも言うように、何度も何度も、唇を重ね直す。
 何度も何度も、同じところを繰り返すみたいに。まるで、壊れたミュージックプレーヤーのように。
 永遠に続きそうなキス。その感触に溺れそうになりながら、わたしは、ぎゅっと、ジルの腕にしがみついていた。