いけない、と思って、慌てて目を覚ますと、そこは、相変わらず、さっきの場所だった。車の中で、わたしは、そのバックシート。そして、目の前には、灯りの点いたレストラン。そして、ジル……? ジルが、車の中に居ない。
 スーッと、眠気が覚めていく。
 わたしは、慌ててジャケットを着て、サンダルを履くと、車の外に出てみた。
 常夏とはいえ、やはり、夜の空気は冷たい。思わずぶるっと震えながら、辺りを、見回してみる。すると、すぐ傍の石垣になった低い塀のところに、ジルを見つけた。その辺りをぶらついたり、その石垣に座ってみたり、少し落ち着かない様子。
 ホッとして、思わず、安堵の溜め息をついた。けれど、ジルは、まだわたしに気付いていない。砂利の敷き詰められた地面を、苦労しながら、何とか歩いて行くと、その足音で、ジルが、やっとこちらに気付いた。そして、とびきり優しく微笑んで、彼も、ゆっくりこちらへ歩いてくる。
「待って。動かないで。転ぶぞ」
 冗談とも本気ともつかない言い方で、そう言いながら。
 わたしは、大人しくその場で立ち止まって、ジルを待った。
 そして、あと数歩で傍まで来る、という時。
 突然、何の前触れもなく、ザーッ、と、土砂降りの雨が。
 一瞬、何が起きたのか分からずに、あっけにとられて、思わず、お互い、顔を見合わせる。二人とも、口をポカーンと開けたまま。
 まるで、コント。
 それとも、罰ゲーム。
 バケツをひっくり返したような雨。大粒どころか、シャワーのような雨が、容赦なく降り注ぐ。久しぶりに、中学生の頃に浴びた、プール前のシャワーを思い出した。下を向くと、髪から滴り落ちる雫が、雨粒と一緒になって、地面に落ちて行く。