liftoff

　ジルの腕の中ーー。
　この温もり、これが無くて、この先、わたしは居られるのだろうか、と、途方もないことをも思ってしまう。生きて行けるに決まっているのに、それなのに、急に、心細くなってしまう。
「どうした……？」
　抱き締めたまま、ジルが、そう言った。
　わたしは、ううん、と小さな声で呟いた。
「少し……、飲み過ぎかも」
　ジルが、クスッ、と笑う。
「そうだな」
　わたしも、思わずクスッと笑った。
　何だか、少し笑ったら、不思議と、涙が止まったみたい。
　ホッとしながら、ゆっくりと、ジルの肩から頬を離した。
　ところが、そこに、真っ黒なものが付いているのを発見して、また、息を呑んだ。
　しまった……。
　ジルのシャツに、付けてしまった。
　キスマークとかなら、可愛らしいけれど、そうじゃない。何と、真っ黒の、マスカラ。言うなれば、睫毛マーク？　ということは、わたしの顔の方も、きっとすごいことになっているに違いない。慌てて、手探りで、何とかハンカチを見つけると、ぎゅっと、それを握リ締めた。
　俯いたまま、身体を離して、ハンカチで、ささっと、目の下を拭う。案の定、ハンカチにも、真っ黒なものが付いた。マスカラを何度も塗り直したことを、今更ながら、後悔。