何てステキなんだろう。隣には、大好きなヒトが居て、お腹もいっぱいで、風も気持ちよくて。今、自分が生きているこの世界は、何てステキなんだろう。こうしているこの今のこの瞬間が、とても愛しい。今のこの瞬間があれば、それでいいと思える。
 何だか、細かいことはどうだっていい、っていう気分になってくる。気分が暗くなっちゃうような、明日や明後日のことなんて、今は、この今には、関係ない。それより、今、こうして居ることを大事にしなくては。ジルが、こうして隣に居る、この今を大事にしなくては。
「それ……溶けるぞ」
 ジルの声で、わたしは、デザートのお皿を見下ろした。
 そこには、周りがトロトロに溶けて、蝶々を呑み込もうとしているアイスクリームが。
 慌ててスプーンですくって口に入れると、甘くて冷たくて、ココナツミルクの味に、ほんのりパイナップルの香りが隠れていて、何だか、急に泣きたくなってきてしまった。
 この味……。何かを惹起させる。
 もう一口食べて、わたしは、思わず納得してしまった。これは、ピニャコラーダの味。ココナツミルクとパイン、そのままなのだ。
 もう一口食べて、その冷たさがどんどん身体の中を下りて行くと、それにつれ、切なさが、胸を一杯にしていく。その切なさが、恋の終わりを何気なく告げているようで、苦しい。今のこの瞬間が幸せであればあるほど、苦しくなっていくような気がした。
 わたしは、まるでそれに反抗するかのように、アイスをぱくぱくと口に運んだ。
 そして、すぐにお皿を空っぽにしてしまった。