わたしは、準備が整うと、ドキドキしながら、ドアをノックした。
 そして、ゆっくりドアを開けて、驚いてしまった。
 ジルが、既に、ドアの方を向いて、座っていたのだ。てっきり、まだ準備が終わっていなくて、あちこち動き回っているところかと思ったのだ。けれど、もう、数十分はそうしていた、という佇まい。
「……行こうか」
 静かにそう言って、ジルは、立ち上がった。そして、わたしの方へ歩いて来てくれた。
 10センチ近い高さのヒールを履いているのに、ジルは、もっと背が高い。何だかホッとしながら、差し出された腕に、自分の腕を絡めた。
 思った通り、そのサンダルはすこぶる歩き難く、ずっとジルの腕を離せなかった。
「転びそう……」
 思わず、そう呟いて、溜め息をついた。
 廊下でもロビーでも、擦れ違う人擦れ違う人、わたし達を二度見していく。
「ドレスはタイト過ぎるし、ヒールは高過ぎるし、背筋をピンとしてないと、胸元がだらしなく見えるし……」
 自分が、何だか余りに似つかわしくない格好をしているような気がしてきて、気恥ずかしくて、思わずそうこぼした。
 ジルは、クスッと笑うと、
「その全部が綺麗だよ」
 と、さらりと言ってのけて、わたしの頬を真っ赤にした。
 ロビーを出ると、そこに、1台の車が用意してあった。ジルは、その助手席側のドアを開けると、わたしを乗るように促す。そして、わたしが乗り込むと、自分は、運転席に滑り込んだ。
 そして、ポケットからキーを出すと、エンジンをかける。
「……ジルの車?」
「違うよ。今日だけ、レンタルしたんだ」