わたしは、どう言ったらいいのか分からずに、ただじっと、ジルを見詰めた。
 ジルも、わたしをじっと見詰めている。
 真顔に戻って、そのガラス玉のような、ピカピカした瞳を、じっと、わたしの方に向けている。その表情からは、何を考えているのか、全く読めない。
 掴まれたままの手首と、そして頬が、燃えるように熱い。
 ジルは、突然、引き寄せた手を、今度は、もっと遠くへ引っ張った。
 自然に、ズルズルと、身体がジルに近づいて行く。支えていた腕も、堪えきれずに、シーツの上に伸びて、とうとう、ジルの胸の上に、頬をくっつけてしまった。
 思わず、息を呑む。
 心臓の鼓動が、聞こえた。
 けれど、それがジルのものなのか、自分のものなのか、もはや分からない。
 頬に、胸に密着するその温かさも、感触も、感じられない。自分が、今どんな格好をしているのかさえ、分からなくなってくる。
 自分自身が心臓そのものになってしまったように、ただ、ドキドキとしていた。
 もう片方のジルの手が、そっと、頬にかかったわたしの髪をかき上げて、そのまま、首筋、そして背中を優しく撫でていく。
 こんなに静かな空間で、こんなに優しく触れられているというのに、わたしの頭の中は、パンク寸前だった。息をするのも苦しいぐらい。自分が、まるで意志のない人形にでもなったかのような気分。いっそのこと、そうだったらいいのに、とさえ思ってしまう。いっそのこと、わたしはただの人形で、ジルは、その人形を、玩んでいるだけ……。その方が、どんなに楽だろう。
 とそのとき、部屋の電話が鳴った。
 わたしは、その音にビクッとしながら、生き返った人形のように、慌ててジルの身体の上から退いた。
 ジルは、ゆっくり起き上がると、サイドテーブルの上の電話に手を伸ばした。
 そして、一言二言話して、すぐに電話を切る。
「忘れてたよ。さ、夕飯に出掛けよう。予約しておいたんだった」
 そう言って、ニコッと、わたしを振り返った。