無防備に寝転がっているその身体の上に、自分も、身を横たえたい衝動に駆られた。ふっと、身体を寄せそうになって、はっと我に返ると、思わず、頬に朱を昇らせた。
 胸の鼓動が、ジルに聞こえそう。
 そのとき、ちょうど目を開けたジルと、目が合った。不思議な色の瞳。
 その瞳に見とれていると、ジルが、素早く、手を伸ばして、わたしの手首を握った。
「……逃げないのか」
 ボソッとそう言うと、試すように、その手首を引き寄せる。わたしは、バランスを崩してジルの上に倒れ込みそうになって、寸でのところで、思わず、もう片方の腕をついた。
 逃げるわけ、ないじゃない。心の中でそう思いながら、わたしは、痛いほどその手を意識していた。息をするのに鼓動が邪魔になるほど、胸がドキドキと高鳴っている。
 今は、顔が至近距離に近づいている。
「……さっき……気付かなくて悪かった」
 一瞬、何のことを言っているのか分からずに、わたしは、思わず首を傾げた。
「最初、あの男と愛し合ってると誤解したんだ」
 さっき、マサユキに組み伏せられたことーーそのことを言っているのだ。それに気付いて、わたしは、慌てて首を横に振った。
「そう誤解されても、仕方がなかったわ。あの状況じゃ……」
 ジルは、溜め息をついて、目を閉じた。
「あのとき、すぐに気付いて、助けられたら……」
 そしてそう言いながら、目を開けて、わたしを見た。
「すごく、かっこ良かったのにな。残念だよ」
 冗談か本気か分からないような調子でそう言い足すと、にやりと笑った。