今度こそ、ジルだ。間違いない。
 わたしは、咄嗟に大声で叫ぼうと、息を大きく吸い込んだ。そのとき、それを察したのか、マサユキは突然顔を近づけてきたかと思うと、わたしの口を、唇で塞いだ。
「!?」
 わたしはパニック気味に、バタバタと手足を動かした。けれど、マサユキの力の方が数倍も強くて、ビクともしない。
「……ウイコ……?」
 ーージルの声だ。ドアが開いて、ジルが入って来たのだ。けれど、マサユキは、手を緩めようとはしない。逆に、もっと力を込めて、さらに、わたしを動けなくしようとする。
 どうしよう。ジルは、これを見て何と思うのだろうか。わたしからは、ジルの姿が見えない。助けて、と言いたいのに、声も出せない。
 しばらくの間があった後、ジルが出て行く音がした。無情にも、ドアが、バタン、と閉まる。
 と、クッ、とマサユキが笑いながら、唇を離した。
「あいつのカオ。魂抜かれたような顔してたぜ。ザマミロだ」
 そう吐き捨てるように言って、また、クックッ、と笑う。
 わたしは、マサユキを睨みつけながら、
「ジル!! ジル!! 助けて!!」
 と叫んだ。もしかしたら、まだ、ジルがドアのすぐ向こうに居るかもしれないと思ったのだ。マサユキもそれに気付いたのか、慌ててわたしを放すと、ドアの方へ走った。そして、マサユキが鍵に手を伸ばしたのと、ドアが勢いよく開いたのとは、ほぼ同時だった。