花巻くんは一日、山浪くんと過ごした。


あんなに生き生きしてる花巻くんは見たことがない。


嫉妬してる?


私が花巻くんに与えられなかったものを、仲良くなったばかりの山浪くんが易々と与えているから。


山浪くんはサラっと歌ってるのに、余りにうまい。


花巻くんがそれに聴き入って、楽しげにノートに書き入れたり、笑いながら山浪くんの肩や腕に触れるのを
どちらに嫉妬してるかわからないまま、目を反らす。



ギターを弾く山浪くんの首と肩の辺りの盛り上がった筋肉は、華奢な花巻くんにはない。青年らしさまで感じる。


山浪くんは多分、もう花巻くんとは違う経験をしたはずだ。


2年の宿泊学習でのパジャマトーク、経験者予想で真っ先に名前が挙がったのも、山浪くんだった。
「首がセクシーだよね」と誰かが言った。それに、人とは違う響きを持つ声が加わると、加速する真実。


ただし、純情可憐な花巻くんの名前が次に出たくらいだから、信憑性はないけど。


すると、ぱっと花巻くんと目が合った。


矢に射抜かれたように花巻くんから目が離せなくなる。


花巻くんの大きな瞳。女の子みたいなふっくらした朱い唇。白い額。華奢な長い首。


あの首にママが触れたかも知れないのだ。


私は視線を外すと、教室を出た。