その彼、イコール。
 この曲を書いた、張本人、なのだ。
 けれど、奇跡は、数秒と保たなくて。
 次の瞬間には、わたしの耳は、再び、雨音とか、エアコンとか、そんなくだらない音に、占領されてしまった。
 でも、頭の中には、その曲の続きが、しっかりと、鳴っていた。

 目の前のテールランプ、
 ハンドル、
 信号の色、
 ブレーキ、
 彼、
 彼の音色、
 彼のグルーブ、
 彼の声。
 わたしの意識は、忙しく、それらの上を、行ったり来たりしていた。